中小企業のための経営スキルとは? - 5つのダイバーシティマネジメント

ダイバーシティマネジメントによる5つの経営スキルとは?

「経営は人なり」といわれます。企業経営には、財務・会計、商品・技術開発、販売・マーケティングなどさまざまな分野での経営スキルが求められますが、基本は、経営者の資質を含めた人材の活用にあります。

特に、中小企業の場合、トップの経営力と社内の人材の最大限の活用が、企業の成長のキメ手となります。

近年、人材活用の戦略的マネジメントとして、ダイバーシティ経営がクローズアップされています。そのダイバーシティマネジメントの中から、中小企業経営にとって不可欠な経営スキルを考えてみました。

多様化する市場のニーズ

企業の経営環境は大きく変化しつつあります。国内市場だけでなく、海外商品、技術との競争、輸出市場の開拓、生産拠点の海外配置など、経営のグローバル化が必須の条件となっています。
また、顧客、取引先、株主などのステークホルダーの要求も多様化しています。顧客の多様化は、商品やサービスの多様性の要求につながっています。そうした経営環境の変化は、一言で言えば、市場の多様化ということです。

市場環境の多様化に対応して事業を伸ばしていくためには、事業展開に当たって不可欠な多様な価値観を有する幅広い人材の確保と、その能力を最大限に発揮してもらうことが、最重要課題です。

その課題解決策として、ダイバーシティマネジメントが登場してきました。ダイバーシティマネジメントとは、多様性を活かす経営スキルと言い換えることができます。

幅広い人材活用で生産性と競争力を高める

ダイバーシティ

ダイバーシティは、多様性という意味ですが、2000年代に米国における経営スキルとして広く認められて以降、日本でも近年、ダイバーシティ経営を導入するところが増えています。

多様性を活かす経営スキルとは、性別、年齢、障害の有無、価値観の違いにとらわれず、幅広い人材の活用を通じて、イノベーションを高め、生産性の向上によって、企業競争力を高める経営手法といえます。

ダイバーシティ経営の成果

ダイバーシティ経営によって、具体的にどんな成果が得られるのかをみていきましょう。

  • プロダクト・イノベーション
  • プロセスイノベーション
  • 外部評価が高まる
  • 従業員のモチベーションが高まる

1つ目には、プロダクト・イノベーションが実現できます。多様な人材が、異なる分野の知識、経験、価値観を持ち寄ることで、「新しい発想」が生まれます。

2つ目として、プロセスイノベーションが期待できます。多様な人材が能力を発揮できる働き方を追求することで、効率性や創造性が高まります。
その結果、製品・サービスの開発、製造、販売のための新たな手法や改良が生み出されます。これは、管理部門の効率化にも期待できます。

3つ目には、外部の評価が高まります。多様な人材を活用していることや、そこから生まれる成果によって、顧客や市場からの評価が高まります。

4つ目には、従業員のモチベーションが高まり、働き甲斐のある職場環境が生まれます。

以上の成果は、直接的には企業の収益・業績の向上に直結するとともに、人材の確保や定着率の向上、さらに、金融機関の評価を高めることにもなります。

ダイバーシティマネジメントによる5つの経営スキルとは

それでは、中小企業がダイバーシティ経営に取り組むためには、具体的にどのような手順や仕組みが必要になるのでしょうか?

大企業に比べて比較的規模の小さい中小企業、小規模企業が実施できる5つの経営スキルをご紹介します。

1.トップの明確なメッセージ

1番目は戦略の策定です。戦略というと少し大げさですが、トップの明確なメッセージの発信です。ダイバーシティ経営は、経営戦略を実現するうえで不可欠な人材活用上の課題ですが、トップはまず、今、なぜ多様な人材活用策が重要なのかを、社員に対して分かりやすく、明確に説明する必要があります。

もちろん、それには、トップ自身が理解、納得しなければなりません。これまでの職場環境、企業風土で経営が立ち行かない実情やこれからの働き方の改革を社員に向けて繰り返しメッセージを発信していく必要があります。

人材活用策というと、会社内では従来、「それは人事部の仕事」「総務部の役割」など、セクショナリズムが頭をもたげます。そうしたセクショナリズムは大企業に良く見られますが、中小企業の場合、そうしたセクショナリズムを排しなければなりません。

ダイバーシティ経営は、単なる人材活用策ではなく、経営戦略上の基本となるスキルなのです。そのためトップは、担当部局に任せるのでなく、自らが陣頭指揮に立ち、社員とのコミュニケーションを図りながら取組を推進していくことが重要です。

2.行動指針や目標となる計画の策定

2番目は、ダイバーシティ経営のための行動指針や目標となる計画を策定します。

ダイバーシティ経営は、社員の多様性を高めること自体が目的ではありません。また、福利厚生やCSR(企業の社会的責任)の観点から実施するものでもありません。企業が収益を上げ、業績向上によって成長を高めることに目的があるのですから、企業の経営理念やビジョンに基づいてダイバーシティに関する指針、目標、計画などを定めることが大切です。

つまり、社員が、具体的なアクションを起こすに当たっての後ろ盾が指針や目標、計画になるわけです。

指針や目標、計画には、具体的な数値を盛り込みます。単なる言葉だけのメッセージでは、説得力がありません。それでは“絵に画いた餅”に終わってしまいます。

例えば、人材採用目標として、「女性の比率」あるいは、昇進の際の目標として「女性管理職のパーセンテージ」などを掲げるのも良いでしょう。また、「スポーツの経験者」などの比率を設定することも企業にとって必要かもしれません。

ただ、目標や数値に意味があるのではありません。企業の経営戦略上の必要性から、その数値が掲げられたという根拠が重要なのです。ダイバーシティ経営の根本もその点にあります。

そのため、例えば、女性社員、スポーツ関係社員には○○の役割を担ってもらう、など明確な経営上の役割を示し、成果を挙げてもらう必要があります。

3.トップ直属の推進部署の設置

3番目は、トップ直属の推進部署の設置です。大企業では難しいのですが、中小企業、小規模企業では比較的容易に実現できるでしょう。

ダイバーシティ経営の推進に当たっては、人事評価制度や労務管理制度、各部門における業務推進体制など、横断的な取組を推進する必要があります。そのためにも、特定の役割と権限を持つ担当者の部署を設け、社内全体へのダイバーシティ経営の理解を深化させ、業績向上につなげていく必要があります。

規模の小さい企業では、人員も限られているため、トップと数人のスタッフで、取組を推進することも可能でしょう。
ダイバーシティ経営は、企業の組織を超えた横断的取組であり、各セクションが、「企業の競争力強化」の観点から、人材活用の状況を把握する必要があります。

4.多様な人材が活躍できる土壌づくり

4番目は、多様な人材が活躍できる土壌づくりです。

これまでの企業の人材登用は、正規社員の終身雇用を軸とした人事管理が中心でした。正規社員中心の組織では、事業の発想に多様性が乏しくなるといわれます。近年は、正規に限らず非正規社員の登用も増えています。

しかし、ダイバーシティ経営は、雇用そのものが、フルタイム、パート、外国人、高齢者、子育て中の主婦など、まさに多様化が極限にまで進んだ中での経営です。そのための雇用管理や雇用環境づくりは抜本的な見直しを迫られます。

企業によって、そうした多様化の進展度合いに応じた環境づくりが必要です。外国人、主婦などの雇用割合の多い企業では、そうした人たちの制約を配慮した上で、最大限その可能性を引き出す工夫が求められます。組織、就業時間、コミュニケーションなどで、企業それぞれの環境づくりが必要になります。

5.現場のマネジメント改革

5番目は、現場のマネジメント改革です。トップが、多様な人材に活躍してもらうことを期待しても、管理職層の意識が旧来のままでは、ダイバーシティ経営の推進は困難です。

ダイバーシティ経営は、往々にして「総論賛成、各論反対」になりがちです。そのため、管理職層には、ダイバーシティマネジメントの取組みに応じた人事評価制度におけるインセンティブの設定などの対応が必要です。
そのための社内研修やセミナーなどの意識改革を並行して実施することが重要です。

まとめ

ダイバーシティ経営は、多様な人材活用による経営戦略ですが、さまざまな人材の活用は、少子高齢化や女性の職場進出、外国人労働者の増加などによって、今後一層その役割が高まります。

中小企業経営者としても、そうした状況に対応するための経営スキルとして、ダイバーシティマネジメントを理解することが重要と思われます。